マンガ

2022年 個人的マンガベスト10

1年に1回だけのマンガ総評。去年購入した漫画の中から個人的なベスト10を並べてみました。


一昨年の年末くらいから電子書籍に手を出すようになってしまい、今まで以上にマンガを購買してしまっている。だって半額セールとか本屋じゃあ絶対出来ないのに、電子書籍だと普通にやってるからそりゃ買うでしょ(笑 

古い本がないという難点はあるけど、新刊は日付が変わると同時に入手できるし、何より売ってない、ということがほとんどないから、人気がなくて本屋ではほとんど出回らない本まで手に入るのがマイナー本好きとしては非常に助かるw

思わず既に単行本で持ってる本まで電子書籍で買っちゃってるよ。


というわけで、恐らく去年は一昨年の5倍くらいマンガ購入してるので、ベスト10を選ぶのは結構苦労した。


詳細はそれぞれの作品名にリンクしてあります。

毎度のことですが、これはあくまで自分の個人的なランキングで世間一般の評価とは異なります。



      

第1位:ちはやふる

第1位:ちはやふる

いまの時代の状元
2

ついに最終回になってしまったが、最終話もその後のエピローグさえも感動が詰まっている。というか、中盤以降の巻はほぼ全ての巻で怒濤の展開と感動の渦が奔流のように荒ぶっている。もはや人の描ける作品ではなく、まさに神懸かった作品ではないだろうか。
途中から太一が外れてしまってどうなるかと思ったが、最終巻できっりち収まるべきところに収まってホントによかった。個人的には太一推しで奏ちゃんの蘊蓄ファンで肉まんくんのツッコミ好き。だけど一番好きなのは富士崎の桜沢先生です。
キャラクターが生き生きと動いているので、どのキャラにも感情移入できてしまう。ここまで群像劇と演劇を極めた作品は稀であろう。
この作品のおかげでかるたに興味を持った人も多いと聞く。将棋や囲碁のように、普通にテレビで視聴できる日が来たらいいんだけどね。次にこれだけの作品に出会えるのはいつになるのか。

第2位:龍と苺

第2位:龍と苺

単行本で読み直したらハマった
1

素行不良の女子中学生、藍田苺が生活指導の宮村先生から将棋を教えてもらったことで、その才能を開花させて女流棋士を越えて竜王戦に挑戦するようになるというお話。
一昔前までは、ファンタジー過ぎてあり得ないだろと一笑に付されるレベルだが、いまや将棋は現役中学生がプロになってタイトルを取るようになっているので、中学生女子が竜王戦に出るくらいのインパクトがないと事実に追い越されてしまいそうだからな(^ー^;A 

正直、絵は余り上手くなく、サンデー連載当初も最初だけ見て飽きそうだなあと思っていたが、ストーリーの進め方と見せ方が非常に上手く、ところどころギャグも交えて非常に読みやすい作品となっていて、いまや毎週サンデーを購入すると一番最初に読むようにしている。
とにかく見せ方、盛り上げ方が非常に上手い。サンデーで読んでるから単行本は買うつもりはなかったのだが、電子書籍では半額サービスをしていたので2週間くらいかけて買おうかと思って買ったらその日のうちに全巻購入してたw
正直、今期はこれが一番だなと思ってたが、1番はちょっと尋常じゃない作品なので仕方ない。

第3位:信長協奏曲

第3位:信長協奏曲

今年で終わりかなあ
3

いよいよ本能寺の寸前という一番盛り上がるところ。本物の織田信長と変わって織田信長となったサブローはどうなるのか、、そして織田信長をサブローに譲って明智光秀となった本物の信長はどうするのか。そして裏切る気満々の羽柴秀吉はどう動くのか。
歴史通りに進めば羽柴の天下になるんだが、サブロー(織田信長)を守ろうとする明智光秀(本物の信長)がどうからむかだよねえ。羽柴にやられて悪役を押しつけられる形になるって流れになるだろうけど、そうなると光秀(本物の信長)も織田信長(サブロー)も両方死んじゃうことになるからな。
たぶん、どっちかが生き残って天海になると思うのだが、サブローに天海役は難しそうだしなあ。
最初に戻って再び現代に戻る可能性も微レ存だが、既に30年以上こっちで暮らしてるからなあ。高校時代に行方不明になって、50才前になって現代に戻っても困るわなw

最近は休載が多くなってるが、どう長く見積もっても今年で完結するだろうから、最後まで見届けたい。

第4位:アサギロ

第4位:アサギロ

入手困難過ぎる
4

新撰組を題材にしたマンガの中では未だにこれが一番面白いと感じる。何というか、泥臭さがあっていいんだよね。実際に新撰組ってこーゆー感じだったんだろうなと。下手に小ぎれいでイケメンばかりなイメージの新撰組よりはよほど好感が持てる。
問題はどこまでやるんだろうな。一応主人公は沖田っっぽいから、沖田が死ぬところまでかなあ。できれば土方が死ぬまではやって欲しいけど。この作品が新撰組をどう締め括るのかは非常に気になるからな。

とはいえ、相変わらず入手困難過ぎだろ。発売日に大きめの本屋に行っても売ってない。最新刊は発売から1ヶ月以上経ってるのに未だに入手できん。
ここまで入手困難になると、ずっと単行本で購入していたが電子書籍に変えようかという気になってくるよなあ。電子書籍だと売ってないなんてないもんな。
もはや本屋は売れ筋の本しか売らないみたいだし、もう電子書籍に取って変わられてもしょうがないんじゃないかなあ。

第5位:葬送のフリーレン

第5位:葬送のフリーレン

勢いは落ちたがやはり名作
5

当初よりは勢いは衰えたものの、やはりこの作品が持つ独特の雰囲気は秀逸で、物語のまわし方も見事である。
だが、基本的に1~2話完結くらいのエピソードは秀逸なのだが、今年になって長いエピソードになると、どうしても冗長に感じてしまう。元々、雰囲気がのんびりとしたというか行間の空白を読者の妄想で埋めるところが面白い作品なので、その行間が長くなるとやはり面白さは一歩退いてしまうような気がした。
アニメも始まることだから物語はまだ続くのだろうが、一つ一つの物語を丁寧に描写したエピソードをまたどんどん出して欲しいものだ。
因みにアニメは、恐らく原作のあの雰囲気をアニメに移すには相当な技量が必要なため、個人的には大失敗すると予想している。それでも、原作の良さが損なわれることはないだろう。

第6位:異世界居酒屋のぶ

第6位:異世界居酒屋のぶ

異世界料理モノの金字塔
6

異世界料理モノは今は数々出てきたが、やはりこの作品が最高峰で金字塔ではあるまいか。単純に異世界人に現代の料理を出して無双するだけではなく、そこにはひとりひとりに向き合った物語があり、群像劇としても一級品である。
最近は異世界にいける仕組みもなんとなく分かり、他にも同じような形で異世界に来た人がいることが分かって、スピンオフ作品である「異世界居酒屋げん」との繋がりが出来るかどうかが気になるところ。
また、原作マンガからアニメ、そして今ではドラマもWOWOWから出ており、こちらもDVDを購入しているほど自分はこの作品が好きなのだ。原作小説が出る速度が遅いのが気になるが、できればマンガは小説を追い越してでも続いて欲しいものである。

第7位:とんでもスキルで異世界放浪メシ

第7位:とんでもスキルで異世界放浪メシ

小説からマンガにそしてアニメ
7

原作小説は1巻発売からずっと読み続けているが、マンガはまあ原作小説読んでるからいいやとずっと読まずにいたのだが、電子書籍で半額になっていたのでつい購入してしまったが、やっぱりマンガになっても面白いですね。

異世界に召喚された主人公は、召喚した異世界人たちが胡散臭いと見抜いて単独行動に移り、そこで魔獣のフェンリルに出会ったことでその後の運命が決まってきます。
異世界料理に釣られて従魔がどんどん増えゆき、主人公は迷惑を被ることもあるけど身の安全と安定的な食材と現金の確保を得ており、一緒に召還されて勇者認定されて奴隷の如く働かされている高校生たちに比べれば相当ツイている。
ちなみに一緒に召還されて勇者パーティーになった高校生たちは、マンガの方では描かれていないが、小説ではかなり悲惨な運命をたどっている。

料理がメインのように見えるが、料理といっても料理好きだった主人公が作れる家庭料理の延長程度のものであり、物珍しい料理や高級料理が出てくるわけではない。そして基本的に従魔が狩った魔獣を食材と資金に換金して異世界を放浪してゆくというもので、パターンは変わらない。それなのになぜか面白いのは、やはり原作小説の描き方が上手いからだろう。こんな単純なローテーションしかしていないのに、こんなに長く続くとは思ってもみなかった。

第8位:悪役令嬢の中の人

第8位:悪役令嬢の中の人

悪役令嬢モノでは異色
8

悪役令嬢モノも異世界転生なみに多くの作品が出てるというのは電子書籍を買い始めて初めてしった。女性は異世界転生より悪役転生モノの方が好みに合うのだろうか?

一般的な悪役令嬢モノは、ゲームの世界の悪役令嬢に転生し、意図的にしろ非意図的にしろ、善行を重ねて結果的にみんなに好かれてゆくというものだが、この作品はちょっと違う。主人公は悪役令嬢に転生した少女ではなく、あくまで悪役令嬢の側なのだ。少女は悪役令嬢に異世界転生するのだが、その肉体を乗っ取られた悪役令嬢の意識が消えず、少女の言動を映画を見るようにずっと観察し続けるのだ。そしてその過程で、少女が異世界から来たこと、そして異世界の知識をも身につけてしまうのだが、少女が本当に善良な子で、悪役令嬢であった自分を必死によい人間にしようとかなりの努力を重ねているのを目の当たりにしたことで、少女と一緒に生活を楽しむまでに変化してくる。しかし、悪役令嬢に転生した少女は、ゲームの主人公の少女に陥れられ、親しかった人たちにも裏切られて努力も水泡に帰してしまう。絶望した少女は意識を閉ざしてしまうのだが、その時、入れ替わって面に出てきたのが、今までずっと少女を観察してきた本来の悪役令嬢。彼女は少女を陥れた者たちに復讐しようと、本来の悪役令嬢が持っていたチートな能力を駆使してゆく、という流れになっています。

悪役令嬢が本来以上の能力を発揮して悪役令嬢になるという設定が見事で、それでいながら精神的には少女に感化されてかなりまともになっており、悪辣な手を使って少女を裏切った者たちだけに惨たらしい復讐をいしょうと企んでいる姿は悪でありながら善でもある。今後、彼女がどういう手段でどんな復讐を遂げてゆくのか非常に興味深い。

第9位:最果てのパラディン

第9位:最果てのパラディン

アニメからハマった
9

アニメで見て原作が気になっていたのだが、単行本を購入しようかどうか迷っていたところで電子書籍に出会って一気買いしてしまった。
アニメも丁寧に作られていたが、マンガの方も丁寧に描かれて居る。主人公の心情描写が秀逸で、キャラクターの造詣が非常に優れている。さらに物語の展開も見事で、いまは神をも殺せる最強のドラゴン退治に向かっているのだが、その緊張感たるや凡百の竜退治の比ではない。
仲間も個性的で見事に全員キャラが立っており、しかも不自然なハーレムになっていないというのも好印象。ハーレムで竜退治するとか言われても緊張感ないもんな。そういう点で、この作品は異世界転生でありながら、思春期少年たちの性的好奇心を満たすような造りになっていないため、大人でも十分楽しめる内容になっている。

この作品も是非続きはアニメで描いて欲しいところであるが、大元の原作小説の方が進捗が遅いようなので、アニメはまだ当分無理かね。

第10位:異世界で 上前はねて 生きていく

第10位:異世界で 上前はねて 生きていく ~再生魔法使いのゆるふわ人材派遣生活~

なぜかハマってる
10

恐らく知ってる人の方が少ないと思われる超マイナー作品。いわゆるよくある異世界転生モノで、俺ツェェェモノではないけどチート能力をもらって無双するという点では凡百の異世界転生モノと大差はない。絵が上手いわけでもなく、キャラが個性的というワケでもないのだが、なぜかお気に入り。自分でもなんでこの作品がこんな好きなのか分からないが、もう10回以上読み返しているのでたぶん相当お気に入りなんだと思う(笑

主人公は大商家の三男坊として転生。桁外れの治癒魔法が使えるという設定で、普通ならそこで冒険者とかなるのだろうが、前世は好きなこともできずに社畜として死んでいったので、金を儲けながらのんびり暮らそうと決意。幸いに商家の大店なのでツテも資金もあるということで、まず始めたのがなぜか奴隷を購入して働かせるという商売。奴隷は一般的な奴隷ではなく、生まれつき身体的に障害があったり、怪我を負って普通の生活ができなくなったような者を格安で購入し、得意の治癒魔法で完治させて働かせるというもの。本人は自分で働きたくないから思いついた方法だが、奴隷たちにしてみれば、主人公は未来を閉ざされて使い捨てられるだけだった自分を救ってくれた救世主。しかも、主人公は社畜として死んで転生しているので、この世界では考えられないほど福利厚生が充実しており、奴隷たちは一般市民よりも贅沢な暮らしができるようになって更に主人公に傾倒してゆくという展開。

主人公は治癒魔法を使って障害奴隷を治癒するといえば慈善家に見えるけど、実は女性奴隷しか治さないので意図的ではないけどハーレムを目指してんだよね(^ー^;A まあ、性的な目的ではなく、たぶん作劇上の都合なんだろうけどw
基本的に善良な人間しか物語にからんでこないので、安心して見ていられるってのがよいのかもしれないが、特に見所というところもないこの作品を、なんでこんなに気に入っているのか自分でもよく分からん。、

2021年 個人的マンガベスト10

マンガとアニメの感想だが最近はマンガは全然レビューしていないので、去年と同じくせめて1年に1回はと、去年購入した漫画の中から個人的なベスト10を並べてみました。

去年はコロナで旅行行けなくなった時が多かったので、その分、マンガを購入していたのでかなりの量を購入していたのだが・・・最初は面白かったけど途中で飽きた作品や惰性で購入している作品が多いこと(^ー^;A
購入している作品はたぶん50作品近くあるけど、続きが楽しみで購入しているのは20作品ないくらいですかね。


ランキングに入ってる漫画は全部購入して読んだというのが条件。
雑誌で読んでるだけで単行本を購入していない作品は除きました。また、発売日が2021年ということではなく、あくまで2021年に購入した単行本ということで。

詳細はそれぞれの作品名にリンクしてあります。
黄色は去年なくて今年てランクインした作品です。
毎度のことですが、これはあくまで自分の個人的なランキングで世間一般の評価とは異なります。



      

1位:ちはやふる

1位:ちはやふる

01

やはりこの漫画がベスト

去年に引き続いてやはりこの作品が1位。

いやあ、もう文句なしに面白い。今年はずっと、ちはやvs詩暢ちゃん、新vs周防名人の戦いがずっと続いているが、これがずっと面白いってもう驚異的。普通の作品なら、1年近くも同じ勝負してりゃ冗長になってくるものだが、全くそんな感じがなく、それどころかどんどんボルテージアップしてくる。正直、作者のこの描き方はもう神がかってるとしか思えない。

自分の好きなキャラの太一が余り活躍していないのがちょっと不満だけど、それを感じさせないほどの盛り上がり方だからなあ。

恐らく今年のうちには勝負着くだろうけど、その後、どうなるか心配だなあ。そのまま終わりになっちゃうのかなあ。この作品終わったら、ロスが怖いわw

2位:葬送のフリーレン

2位:葬送のフリーレン

02

安定の面白さ

去年は「ちはやふる」と同率1位だったが、今年は2位。去年ほどのインパクトがなくなってきたというのもあるが、1位の「ちはやふる」の盛り上がり方が尋常じゃないので仕方ない。

今年は主にフリーレンがいろいろな冒険者仲間と出会うという展開が多かったが、それでもほとんど彼女の信念というか立ち位置はブレない。その性格形勢に影響を与えたのが、数千年生きてきて師匠と勇者ヒンメルの2人というのが大きいのだろうね。どちらも木訥でありながら確固とした信念を持って生きて死んでいったからな。

フリーレンの生き様は、そのまま師匠と勇者ヒンメルの凄さを伝えるためのものなんだろうね。

3位:信長協奏曲

3位:信長協奏曲

03

もうすぐ本能寺

去年は4位だったが、3位の「宗像教授シリーズ」が既に完結しているので今年は入らずに3位に繰り上げ。

いよいよ本能寺が近くなってきてクライマックス感が出てきた。しかも、本能寺で信長を殺すのか殺さないのか、誰が指示を出すのかが未だに読めない。恐らく、秀吉が命令を下すのだろうが、信長=サブローの事を気に入っている明智光秀=本当の信長が本能寺を起こすとも思えないが。可能性としては、本能寺の変を起こしたと見せかけて、秀吉を誘き出して誅殺する展開かなあ。

どうなるか楽しみだが、月刊なのに休載が多いのが気になるなあ。来年で完結するのだろうか?

4位:転生貴族~鑑定スキルで成り上がる

4位:転生貴族~鑑定スキルで成り上がる

04

異世界転生モノにハマった


「信長協奏曲」や「転生!竹中半兵衛マイナー武将に転生した仲間たちと戦国乱世を生き抜く」など実際の歴史をタイムリープする作品は昔からあって結構好きだったのだが、いわゆる主人公が都合良く無双する異世界転生モノは面白いとは思うがハマったのは「オーバーロード」くらいだったのだが、これは久しぶりにハマった。

主人公はお約束の展開で乱世に突入する前の異世界に、田舎の貴族の息子として転生するのだが、無双するような能力が付与されているわけではなく、付与されたのは鑑定能力。これはで周りの人のパラメーターを数値化して視認できるというもので、いわゆるゲームの「信長の野望」などで各キャラクターの現在のパラメータと最高値のパラメータが割り振られているように、周りの人のパラメータが見えるので、青田刈りや人材の適正配置が容易に出来るというもの。

つまり、「信長の野望」などのシミュレーションゲームにおいて、他のプレイヤーがパラメータは実際に人材を育てていかないと見えないのに、自分だけは全てのキャラクターの現在値と最高値が見えているということになる。

当初は周りの低いパラーメータの一般人ばかり見えていて期にもしていなかったのだが、世が乱世に突入しそうになると分かって人材を探すと、野に遺賢ありとばかりに「織田信長」や「黒田官兵衛」クラスの人材を見つけてゆくという、ゲーム「信長の野望」好きにとっては何とも痛快な展開になっている。

単行本ではまだ乱世に突入する寸前の黎明期だが、今後に期待ができる作品である。

5位:アサギロ

5位:アサギロ

05

新撰組を描いた作品の中では一番好き

新撰組を描いた漫画は多くあるが、この作品は新撰組を正義の集団とも同じ志操を持った仲の良い仲間たちのような描き方ではなく、現実に近いエグくて不作法な無法者の集団という描き方をしており、どいつもこいつも一癖も二癖もあるような胡散臭い連中として描かれていながらキャラクターに魅力がある。

連載では池田屋事件が終わって沖田総司が結核で倒れたところまで進んでおり、どこまで描かれるか分からないが、どうせなら土方歳三が死ぬところまでは描いて欲しいものだ。

絵柄はかなり粗く、女性受けはまずしないのだが、そこが非常に味があってよい。

売れていないのか発行部数が極端に少なく、発売日に本屋に行っても売ってる店がほとんどないのは困りもの。結局、いつもアマゾンで購入するしか入手手段がない。ジャンプなら速攻で打ち切りになっているだろうが、ゲッサンなのでこのままキチンと終わらせて欲しいものだ。

6位:異世界居酒屋のぶ

6位:異世界居酒屋のぶ

06

安定の異世界居酒屋

異世界転生ではないが、現代知識と技術で異世界無双という形では、自分が初めて読んだ異世界モノであるから愛着がある。小説は進みが遅いが、漫画版は定期的に出版されているので最近は漫画版の方を読み返している。

料理メインの作品であるが、「おいしんぼ」のように美味しい料理で全ての問題が解決という安直な流れではなく、あくまで料理はスムーズな人間関係をはぐくむための一手段になっており、メインでありながら前面に出過ぎていないこの加減が申し分ない。

小説原作の方は遅遅として進まないが、マンガの方はオリジナル展開でもいいのできっちり進んで終わらせて欲しいものだ。

7位:からかい上手の元高木さん

7位:からかい上手の元高木さん

07

高木さんと西方の未来を知ると高木さんも面白くなる

子供のいる大人になった西方と高木さんの日常マンガであり、特筆するようなギャグもストーリーでもないのだが、ただ読んでるだけでほんわかとなる作品。こういう作品は人によって印象が異なるのかもしれないが、個人的には「からかい上手の高木さん」が土台にあるからこそ、未来の2人の様子がさらに印象深く残るのだと思う。

「からかい上手の高木さん」が終わったら、今度は2人の娘が中学生になってからの話をして欲しいなあ。
こういう見ていてほっとするマンガはずっと続いて欲しい。

8位:月影ベイベ

8位:月影ベイベ

08

祭りに行きたいけどいけない

「坂道のアポロン」を読み返していたら、無性に作者の作品が読みたくなって探したら、5年近く前に既に完結している本作品を見つけて全巻大人買いしてみたらどっぷりハマった。

富山県八尾市で行われる伝統芸能「おわら風の盆」というお祭りで踊ることに情熱を傾ける少年少女たちの物語なのだが、相変わらず原作者の物語への引き込みかたが凄く、見たことも聞いたこともない祭りなのにすぐに魅了されてしまう。

富山県全土というわけではなく、八尾市内の僅か10町村のみで行われているような限定的な祭りでありながら、劇中で語られる熱量は凄まじく、青森のねぶた祭りのように、この祭りのためにみんな生活しているような印象を受ける。

この作品を読んだからには、この祭りを一目見て見たいと思うのだが、コロナの所為で2年も中止となっており、見に行く機会を逸しているが、コロナが開ければすぐにでも見にゆきたい。

9位:半助喰物帖

9位:半助喰物帖

09

残念ながら完結してしまった

去年もトップ10に入った作品で、今年も確実に入るほどに面白かったのだが、残念ながら完結してしまった。物語的にはもっと続けてもよかった気がするが、人気がなかったのだろうか? この作品が完結してしまったというのを単行本購入時に知ったので、読了後のロス感が凄かったw

結局、最後はタイムスリップした世界から元の世界に戻れたようだが、その子孫が現代まで残っており、香澄がその子孫と出会うという展開はなかなかよかった。できればそこから数話は話を進めて欲しいと思ったのだが。

江戸時代の食生活と現代の食生活の差が興味深く、食べ物に興味ある人ならば一度は読んでもよい作品。作品的にドラマ化してもよさそうなので、アニメよりもドラマとして見たい作品である。

ああ、だけどなんで終わっちまったんだろ・・・

10位:転生!竹中半兵衛マイナー武将に転生した仲間たちと戦国乱世を生き抜く

10位:転生!竹中半兵衛マイナー武将に転生した仲間たちと戦国乱世を生き抜く

10

あれ? 意外に面白いぞ(笑


同名の小説は見たことあるが、またしょーもない転生モノを出してきたなと思って見向きもしなかったのだが、電子マンガで1巻無料とあって立ち読みしてみたら、意外と面白くてその日のうちに全巻購入してしまった(笑

戦国時代の武将・竹中半兵衛に転生してしまった主人公を軸にした作品なのだが、同じように転生した者が7人おり、定期的に夢の中でチャットで会話ができるので、8人で歴史を変えて全員が生き残れるように生き残り戦略を立てるというのが大まかな内容。

転生した武将は竹中半兵衛の他は、最上義光、北条氏規、安東茂季、一条兼定、小早川繁平、今川氏真、伊東義益。「信長の野望」をプレイしていれば、ほとんどが武将の来歴をおおよそ知っていると思うが、竹中半兵衛に転生した主人公もゲームからこれらの武将の史実を知っており、大半が悲劇な死に方をしていることから、その事実をみんなに伝え、8人で裏同盟を組んで日本を統一してしまおうというもの。

戦国時代の異世界転生モノは、大抵が信長や家康など有名武将の傘下に入ってしまおうというものが多いが、この作品では8人全員が生き残るためには織田・豊臣・徳川の世になっては無理だと考え、彼らに敵対するような展開になるのも面白い。

知ってる人なら8人が若い時代に起こる大きな最初の戦は「桶狭間の戦い」。そこに未来を知っている竹中半兵衛と今川氏真が歴史を僅かに変えつつ自分たちに都合のよいように歴史を持ってゆくやり方がなかなか面白く、エンターテイメントとしては非常によく出来ている。
これは今後が非常に気になる作品です。

1位:葬送のフリーレン

1位:葬送のフリーレン

01a

設定も流れも秀逸


勇者が魔王を倒すというストーリーは山ほどあるが、倒してから、世界はどうなった、勇者はどうなったかを突き詰めた作品ってのは自分の知る限りはないと思う(自分が知らないだけで、ありそうなものだが)。この作品は自分のそういう世界を見事に具現化してくれている。

魔王を倒した程度で世界が平和になるはずもなく、勇者の威名も数十年もすれば忘れ去られてゆく。そんな世界で勇者パーティーの中で唯一生き残っている長命のエルフのお話なのだが。過去から現在に到るまでのストーリーや設定が秀逸で、その上に積み重ねられた現在進行形のストーリーに重厚さを持たせている。

好きなキャラはやはり主人公のエルフ、フリーレン。魔族に両親を殺され、魔族をころすためだけに魔力を研磨し続ける彼女は勇者野パーティーに加わるまでは感情を露わにすることは稀であった、情の涸れた所に観照という目が開くものだと思っていたようだが、勇者のパーティーに加わることで、徐々に彼女が変わり、そして全ての仲間が死んだ時に初めて自分が何を与えられていたのか気付く、という最初のエピソードは白眉である。

最近は新規で購入する本はデジタル版を購入するようにしているのだが、この本だけは発売日に単行本購入したw

2020年 個人的マンガベスト10

1作入れ忘れていたので改訂A版

マンガとアニメの感想を書くブログのハズだったが、最近はアニメばかりでマンガの感想はさっぱり。

マンガも読んでないわけじゃないんだけど、好きな作家さんがほとんど作品描かなくなったから一時期に比べるとかなり購入数は減ってるから、書くとしたら旧作ばかりになってきそうだからな。

去年も結局、マンガの記事はゼロだったので、まあもう年が明けてしまったけど、2020年で購入して読んだ漫画のトップ10を並べてみました。
並べてみると、惰性で買ってる漫画が多いなあ(笑 実際はこの3倍くらいのマンガを購入してるから、2/3は惰性で買ってることになる。

ランキングに入ってる漫画は全部購入して読んだというのが条件。
雑誌で読んでるだけで単行本を購入していない作品は除きました。また、発売日が2020年ということではなく、あくまで2020年に購入した単行本ということで。

詳細はそれぞれの作品名にリンクしてあります。

毎度のことですが、これはあくまで自分の個人的なランキングで世間一般の評価とは異なります。




1位:ちはやふる

1位:ちはやふる


01

少女漫画だけどスポ根漫画の王道

アニメから入ったけど、初回クールでハマって単行本を即日全巻購入して今にいたる。

何しろ展開が燃える。
無駄な展開や蛇足なエピソードが1つもない。そして全てが熱い! 最近の少年漫画では見なくなった根性論のスポ根漫画ですが、やはりこういう青春群像というのはハマるとどっぷり感情移入できる。

かるたなんてしたことがない自分でも、その展開の熱さにドキドキするんだから、かるたを実際やってる人にしてみればもうバイブルみたいな作品ではないだろうか。

もうね、読んでて泣けてくるんですよ(笑

お気に入りキャラはずっとちはやでしたが、最近では太一。
青春全部賭けても勝てないような相手に挑んでゆくその姿勢に惚れましたわ。異世界転生しただけで強くなれるキャラとは大違い(笑

好きなセリフは高校カルタ選手権団体トーナメントでちはやたち瑞沢が優勝した時、対戦相手の富士崎の桜沢コーチのセリフ

「この負けは先生の責任よ。私がかるたの神さまでも、最後は瑞沢の懸命さに微笑むわ。強さに傲ったチームを作った私の責任」

このシーンの時にボロボロ泣いちゃったくらいよかった。ここに至るまでの瑞沢の頑張りがもう尋常じゃなかったからなあ。


2位:宗像教授伝記考、宗像教授異考録

2位:宗像教授伝記考、宗像教授異考録


02

これで古代史にハマった

伝記考の続きが異考録だけど、まあ登場人物も設定も同じでほとんど続きの作品なので宗像教授シリーズとしてまとめました。

東洋史が基本的に好きだったけど、日本史は戦国時代以前については余り興味を持っていなかったが、この作品を読んで一気にハマり、神社巡りなどをするようになってしまった。

多少のファンタジー要素はあるが、基本的には史実や実際の史実観に則って描かれており、古代史好きならば必ずハマる。

一般的な仮説なのか作者の仮説なのか分からない部分も多くあり、なるほどと感心させられてばかり。
特に天香香背男(天津甕星)の考察は秀逸。

天香香背男(アカツカカゼオ)はまたの名天津甕星(アマツミカボシ)といい、「日本書紀」に登場する神の中で唯一「悪神」と呼ばれた神です。
「香香」というのは輝くという意味で、「甕」は水をためておく「カメ」のことです。
星神でもあるから天香香背男というのが輝くというのは分かるけど、カメとどうつながるのか分からなかったのだが、作中で宗像教授が「甕」は地上に出来た巨大なクレーターであり、それが大きなカメのように見えたので、その名が付いたのではないか。そして隕石落下により多くの人が死んだことで悪神となったのではないかと考察されていて、なるほど!と感心したものです。

3位:信長協奏曲

3位:信長協奏曲

03

異色のタイムスリップモノ

ちょっとデキの悪い高校生がタイムスリップして織田信長と入れ替わってしまうという、なろう小説のような設定だが、原作者の手腕なのか物語が非常によく出来ており、ぐいぐいと引き込まれる。

異世界転生やタイムスリップしたという展開はよくあるが、大抵は現代の文明や知識を利用して成り上がったり成功したりするものだが、この作品の主人公は歴史に全く興味がなく、織田信長という名前もギリ知ってる程度。
そんな感じだから、歴史なんて全く覚えてない状態で入れ替わるのだが、人柄の良さで難局を難局と思わずに、気楽な感じで困難を乗り切ってしまう展開は、超能力を与えられて異世界で俺TUEEEEするのとはまた別の爽快感がある。

ゲッサン創刊から連載をずっと追っており、毎回楽しみでしょうがない。
ゲッサンはベスト10に3作品も入っているが、実はこの3作品以外はあだち充のMIXくらいしか読んでいない(笑

物語はかなり大詰めに来ており、もうすぐ本能寺の変が起こるはずだが、明智光秀が完全に信長の腹心となっている展開でどういう流れになるのか、非常に興味深いです。

4位:異世界居酒屋のぶ

4位:異世界居酒屋のぶ


04

異世界グルメモノの嚆矢

現代で居酒屋を出店したら、入口が異世界に繋がっていました、と発売当時はかなり強引な設定だなあと思って読んでいたが、今ではもっと強引な異世界転生がいっぱいでてきたので、このくらいなら普通になってしまったな(笑

異世界で現代の料理を出して無双するという話だが、異世界の歴史観や設定がかなりしっかりしており、異世界の事件や事故に巻き込まれつつ、異世界の人々に助けられて克服してゆくというある意味王道な展開が歴史観と設定の緻密さでしっかりと土台形成されているので王道以上に面白くなっている。

基本的にはマンガよりも小説の方が面白いのだが、なろう小説の悪いところで元々販売出版する意図ではなくあくまで趣味で書かれているので、随分前から連載がストップしてしまっている。

代わりにマンガの方がもうすぐ原作に追いつくくらい進んでいるので、今後は小説じゃなくてマンガの原案として参加するだけになりそうだよなあ。

好きなキャラは助祭のエドヴィン老。
酒好きの聖職者という破戒僧設定で、既に老人なので出世も戒律もおかまいなしな生臭坊主かと思ったら、実は枢機卿の懐刀と呼ばれていたほどのキレ者だったという厨二病的な設定に惚れたw

5位:超人ロック

5位:超人ロック


05

壮大なスペースオペラとはこのこと

自分が学生時代から購入し、未だに連載が続いているという唯一の作品。
連載する雑誌が次々廃刊になるというジンクスを背負いながらも、半世紀近く同一作品で連載をしているってのは凄いです。

既に一番最初のエピソードから千年以上経っており、基本的には時系列順に進んでゆくが、昔は時代が過去や未来にすっとんだエピソードなどもあり混乱するが、時代背景やセリフなどからおおよその時代が推定できるからマニアックな楽しみ方ができる。

最強エスパーという設定は数多くあるが、やはり最初にでてくるのは超人ロックだよなあ。

好きなエピソードは定番だけど「ロードレオン」と「光の剣」。
「ロードレオン」はロックを凌ぐほどのエスパーでありながら悪逆をする彼をロックが赤ん坊に戻して妹に託すんだけど、結局、また悪の道に戻ってロックの前に立ちはだかるって展開が当時は斬新で驚いたんだよねえ。

「光の剣」は定番のボーイ・ミーツ・ガールで、ひ弱でエスパーを敵視していた少年が自分もエスパーだと分かって成長してゆく物語。
シリーズの中でもその後、いろんなエピソードに出てきて、当初はロックより年下の見た目だったのに、最後は老人になってるのが印象的。


6位:からかい上手の元高木さん

6位:からかい上手の元高木さん


06

でれでれしながら見れる作品

元になった「からかい上手の高木さん」はゲッサン連載中だけど、こちらは雑誌で読んでいるけど単行本は実購入。作品は好きだけど、購入するタイミングを逸した。

この2人は将来結婚するんやろうなあ、などと思っていた時に結婚してからの本作品が発売されていたものだから、今度は反射的に購入してしまったw

基本的には元の作品と同じなんだが、学生同士の甘酸っぱい感情を堪能する作品ではなく、子供が間に入ることで凄くほっこりした理想の家庭を堪能する作品になっている。

元の作品はオマージュにしたと思われる作品が多々でているが、やはりこの作品を越えるような作品はでていない。他人をからかう、というともすれば嫌味な行為をこれほど甘酸っぱい行動に昇華できるのは、やはりこの原作者の手腕であろう。

原作舞台の小豆島はこの作品の影響で何度も旅行しようと思っているが、未だに達成していない。コロナが収まったら真っ先に行きたい。

7位:アサギロ

7位:アサギロ


07

新撰組をテーマにした作品の中では一番しっくりする


新撰組をテーマにした作品はマンガ・小説を問わず山ほどあるが、個人的にはこの作品の新撰組が一番しっくりくる。

変にいい奴だったりイケメンだったりする数々の作品はあるが、この作品に出てくる隊士はどいつもこいつも一癖も二癖もあるような連中ばかりで、まさに雑多な集まりである新撰組にぴったり。

基本的には史実に則った人物が登場して史実通りのとエピソードで進んでゆくが、歴史上、はっきりしていないところは作者のオリジナルで進んでおり、これも何かすごくしっくりくる流れになってるんだよねえ。これが史実だと言われると信じてしまいそうになるw

絵柄がかなり大胆なタッチで女性受けはしないだろうし、単行本の販売数も少なくいつも探すのに苦労するから、いつか打ち切りにされるんじゃないかとドキドキしながら購読している。

新撰組の作品は途中で終わってしまう作品も多いが、この作品だけは、せめて土方が死ぬまでくらいは、端折らずに連載して欲しい。


好きなキャラはもう死んでしまったが芹沢鴨。あのキチガ○っぷりがなぜか嫌いになれない。

8位:半助喰物帖

8位:半助喰物帖


08

異世界転生ならぬ現代タイムスリップのグルメモノ


幕末からタイムスリップしてきた楢原半助が、ひょんなことから一人暮らしのOL吉川香澄と共同生活することになり、主夫として毎日、当時の料理を現代の食材で調理してもてなすというストーリー。

ちょんまげ姿で金も持っていない男をよく自分の家に泊めるなあと思うところだが、物腰柔らかで低姿勢で人の良さそうな半助を見捨てておけないという気持ちはよく分かる。

現代の生活でストレスいっぱいな香澄が戻ってくると、半助の何気ない普通の料理だが絶品の料理が待っているというのは、一人暮らしのOLならず、現代社会に生きる人にとっては理想の生活ではないだろうか。

この展開だと色恋沙汰とかになりそうなものだが、半助も香澄も全くその気がないようで、今までそういう展開が全くないってのも個人的には気に入っている。ここに色恋沙汰が入ってしまうと、ゴールデンに放映しているような3流ドラマになっちゃうからねえw

現代の食材を使って江戸時代のレシピで作る料理というのは受けそうなものだが、どこかで実際作ってるお店とかないんだろうか?
江戸料理というのは食べたことあるんだが、庶民の江戸料理というのは食べたことないからなあ。

9位:ふしぎの国のバード

9位:ふしぎの国のバード


09

明治初期の日本を知るには絶好の作品


実在のイギリスの女性冒険家、イザベラ・バードの著書「日本奥地紀行」をベースに、当時の日本の文化と当時の外国人の日本人観を如実に現している良作。
一部、フィクションも交えているようだが、基本は「日本奥地紀行」の記述通りの道程で物語が進んでおり、明治になって近代化を果たしているはずの日本が、ちょっと地方にでると江戸時代と変わらぬ生活をしているというのは結構衝撃的。

何より驚いたのは、このイザベラ・バードが実在していたということ。
作中では20才前後の若い姿だが、彼女が実際に明治初期の日本を訪れたのは46才というそろそろ足腰が痛くなるような年頃。
しかも日本語はほぼ喋れない状態で、通訳の伊藤鶴吉のみを伴って東京から日光を経て新潟に到り、そこから日本海に沿って北海道まで旅をして手記を残しているというのは驚嘆だ。
当時の日本人の不衛生さ、見苦しさを描写しつつも、好奇心の強さや優しさにふれあうのは現代にも通じるのではないか。

原書を読みたいのだが、かなり読みづらいようなので、どうしようか迷っている。

10位:戦国小町苦労譚

10位:戦国小町苦労譚


10

タイムスリップの究極の成功例


実はマンガではなく小説のファン。
正直、マンガは小説版をかなり薄めて描かれており、小説版のおもしろさの1/10もない。だから順位はマンガ版だが、感想は基本的に小説版の感想である。小説版を順位に加えるとたぶん1位か2位になるくらい好き。

異世界転生モノだと思って読み始めたが、女子高生が戦国時代にタイムスリップするというありがちなストーリー。「信長協奏曲」と同じ展開です。

ただし、こちらの主人公はガチガチの歴史オタク。しかも、信長が全国制覇するにはどうすればよいかってのを普段からシュミレートし、当時の材料で現代技術を再現できるものをピックアップして調べているという周到さ。しかも本人は農業高校に通っており、農業知識は基礎から品種改良までばっちり。

そういう土台があって、信長の偉業を補弼して危険を覗き、生活水準を驚異的に上げてゆくのが爽快で痛快。

歴史オタクの彼女は栄達や昇進など全く興味がなく、ただ信長に天下統一して欲しいという我欲のなさで信長に仕えるものだから、信長の受けもよく、信忠が幼い頃から面倒をみているので信忠の受けもよい。
そんな盤石とも思える中で、作中では既に既存の歴史より早く武田を滅ぼして上杉を屈服させ、本願寺を骨抜きにしている。

現代技術と知識を駆使して近代化してゆく信長の行く末がどうなるのか非常に興味深い。



【新】INGRESS (第1話)

INGRESS

第1話「Begin - Danger - Message」

2013年、スイスの物理学研究所セルンで人間の精神に干渉する未知の物質が発見された。開発者のひとり、サラ・コッポラは真実を世界に暴露しようとして会社に捕らえられてしまう。
一方、クリストファー・ブラントも同じく暴露しようとして捕まってしまったが、彼はなぜか自ら爆発して身を隠してしまう。クリストファーにサラの保護を依頼された元傭兵のジャック・ノーマンはサラを逃がそうとするが、一足先に助け出されてしまう。サラを助けたのは翠川誠。触れた物の記憶を読み取るというファンタジー設定超能力者だった・・・


サラとクリストファー

「ふたりの裏切り者が同時に行動を起こした。偶然にしては出来すぎだ。おまえたちの目的はなんだ?」

「・・・だれ?」

「君が私を知らなくとも、私は君を知っている。君は世界の見え方が人とは違うのだろ?。人には見えないモノを見て、人の知らないことを知ってきたはずだ」

「あなた、いったい・・・」

「想定とは違ったが、目的は果たせた。私は君を救いにきたのだよ」

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なんか、世界観もキャラクターも分からないうちにストーリーだけがどんどん進んで視聴者置いてけぼり状態(^ー^;A
クリストファーとサラはセルンが開発した人間の精神を操る物質の存在を世間に公豹しようとして会社に捕縛されたようだけど、なぜかお互いに面識はないけど、クリストファーはサラのことはよく知って居るようで、彼女に真実を話すよう促して自爆してしまいます。
自爆したけど死んだっぽくないんだよね。サラの能力は何かモノのオーラみたいなのが見えるみたいだけど、それが何なのかは現状は不明。

キャラクターもオールCGだから、なんか人形が喋ってるような感じなんだよねえ。作画崩壊はないけど、人間っぽくないからなあ(^ー^;A

この問題の会社はスイスの「セルン」なんだが、これってシュタゲの世界と同じ世界線なんか?(^ー^;A


翠川とジャック

「動くな。いろいろ聞かせてもらうぞ」

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ジャックはクリストファーにサラの保護を依頼したのだけど、翠川はネットで助けてくれと言われて助けたようで、二人はお互いに敵だと思い込んで接触。翠川は警察で触ったモノの記憶が見えるという特殊な能力を持ってるけど、元傭兵というジャックにはかなわずにひとひねりw

ゆくゆくは目的同じなんで共闘するんだろうけど。

うーん、1話では全く分からない話ですね。キャラはオールCGなので愛着は持てないんで、ストーリー重視ならば視聴できるかなあ・・・

藤子不二雄短編集 老年期の終わり

藤子不二雄短編集 老年期の終わり
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毎度お馴染み藤子不二雄氏の短編集です。全部で20ページくらいしかないから、レビューするにはお手軽なんで(^ー^;A

本作は有名なSF作家、アーサー・C・クラークの代表作ともいえる小説、「幼年期の終わり」をネタにしています。中身を知らずとも、このタイトルだけでもどこかで聞いたことあるなと思った人は、少なからずSF作品をかじってる人ではないでしょうか。
私もタイトルしか知らなかったんですけどね。これを機にちょいと調べてみると、「幼年期の終わり」は「人類の進化」をテーマに、その末にあるものが絶望的ともいえる結末であるのに対し、「老年期の終わり」は「人類の退化」をテーマに、その末にあるものが希望的な結末というもので、悉く対峙しているように思えます。
無論、「幼年期の終わり」は長編小説であり、短編マンガの当該作品はそれに比べれば圧倒的に内容が薄いことは否めませんが。

西暦2057年。銀河系の異文明を求めて地球から1機の宇宙船が旅立った。銀河系には必ず異文明があり、彼らに必ず会うという固い信念を持ち、その日を待って宇宙船の中でコールドスリープをするのは日本人宇宙飛行士のイケダ。
そして時が流れ、およそ6000年後、イケダはついに銀河系のほぼ中央にあるラグラング星に辿り着く・・・・


6000年後の到達

「人口冬眠よ。昔は・・・ワープ航法の開発以前は宇宙旅行に物凄い時間がかかったので、こんな手段をとったんですって」

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イケダが地球を出発してから6000年後、ようやく辿り着いた星・ラグラング。
2057年と言えばあと45年後ですが、その時代にはこんな宇宙船が出来ているでしょうかね。宇宙関連の技術者に憧れていた私としては、もしこんな宇宙船が出来て銀河系を旅する時代が来るならば長生きしてみてみたいですねえw
まあ、ワープ航法なんてまだSFの世界でしかないので45年後には当然無理だろうけど、人工冬眠による長旅とかなら行けそうな気がしちゃいます。
実際に6千年も氷漬けにされていると細胞単位でダメになってしまいそうな気がしますが、数百年ごとに自動的に目覚めるようになって細胞の劣化を防いでいたりするんでしょうかね。

しかし、たった一人で、しかもほとんどがコールドスリープ状態で銀河系に向おうという心意気のある若者ってのはいるんでしょうかね。
タイトル通り、人間歳を取ると未知のものへの挑戦とかまだ見ぬ世界への同系とかも薄らいできちゃいますからねえ。まあ、私のような自堕落な人間は、若いときでもこんなチャレンジはできなかっただろうけど(^ー^;A

同じ藤子不二雄の短編集に、たった一人だけ外宇宙に飛び出し、地球と連絡も取れないような世界を旅することに意味があるのかという問いがありましたが、そこでは行ったという事実が大事だと答えてました。人類の中でエベレスト登頂に成功したものは僅かしかいませんが、それでも人類はエベレスト登頂をなしとげた事実となっているように、たった一人でもチャレンジして辿り着ければ、それは人類の勝利なのかもしれません。

60日で地球に

「さて、ゆっくり休まれるがよかろう。何しろ明日は、また出発して頂くことになるのだから」

「出発? どこへ行くんですか?」

「・・・・我々と一緒に地球へです」

「地球!? また6千年もかけて?」

「この星は銀河開発用基地としての使命を終え、廃棄されることになったのだ。60日後、我々は母なる地球の大地を踏むことになるのです」

「たった60日で地球へ!? じゃあ、僕の過ごした6千年は、いったいなんだったんだ!肉親も友人も全てを棄てて、何もかも犠牲にして、孤独と暗黒の中で送った6千年の歳月・・・」

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そう、このラグラング星は、はるか昔、イケダが外世界に旅立ってから1000年後に人類が銀河系全体へ広がるための拠点として整備された星だったのです。この世界の歴史では、イケダが旅立ってからわずか150年後にワープ航法が開発され、人類の領域は飛躍的に進捗していったようです。まさに人類の青年期がこの時代だったようですな、
銀河中央殴りこみ艦隊とかもあったかもしれません(笑

しかし、銀河を開発し尽くしてしまい、人類はその青年期を追えてしまったようです。この惑星も中継地点の役目を負え、住人は既に99%が地球に帰還。いま残っているのは、政府関係者とその家族のみ。しかも、明日には残った人全員が地球に戻ってこの惑星は廃棄されるという日にイケダは辿り着いたのです。

もうその頃には人々の記憶からもイケダの計画なんぞ忘れてしまっていたでしょうね。ラグラング星に不時着する時、先古典期の地球の宇宙船だと解析できたみたいだから、記録には残っていたんでしょうけど。
これはショックだろうな。家族も友人も何もかも捨て、まだ見ぬ未開の地への憧憬と希望だけを胸に6000年もかけてたどりついたのに、今では60日で地球に行ける程度に世界が小さくなっていて、さらに今日を最後にこの星が廃棄されるなんてのは、絶望したどころの話ではないだろうねえ。
1日到着が遅れていたら、イケダの宇宙船は大気圏で燃え尽きるか、この惑星に衝突して誰にも知られないまま死んでいたでしょう。そっちの可能性の方に私は恐怖しましたけどね。

眠っていた間の歴史

「23世紀の半ばだったかな。君が地球を発って150年後にワープ航法が開発された。これによって人類は光速の壁を破り、続々と星の海原へ乗り出して行ったのだ。まさに爆発的なエネルギーだったよ。あの頃が、「人類」の「青年期」だったのだろうね。この丘に地球からの開拓者が降り立った時、ラグラングの歴史が始まった。わし自身の思い出もこの丘から始まる」

「なぜです? そんな想い出の星を棄てて地球へ帰るんです?」

「なぜといって・・・ここは元々中継基地なんだ。その目的はとっくに失われている。銀河系が開発し尽くされたわけじゃない。意欲を失ったのだ。いわば「人類」という種が「老年期」に入ったんだよ」

「信じられない! 種の老年期なんてあるものか!」

「出生率の低下。文化の停滞も問題だ。ここ300年、これといった発見も発明もない。何よりも、新しいものに目を向けようとしなくなった。人類全体の性行がそうなっている。古い記録をあさっていると、昔の人と現代人の違いに愕然とする」

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コールドスリープなんていうこの時代では超古典的な技術であったのに、何とか再生できたのは、たまたま残っていた看護師見習いの女性・マリモが残っていたからでした。彼女は史官である祖父の身の回りの世話をするために残っていただけなのですが、唯一の医療知識を持つ者として急遽彼の再生を委託され、見事に成功させたのです。
まあ、この時代には医療ロボットとかがあるみたいで、それらに的確な指示を出すというのが医者の仕事のようなので、まだ見習いの彼女でも再生できたのでしょうけど。

事実を知ったイケダはすっかり消沈。そんな彼を励まそうと、マリモは親身になって世話をしてくれます。
しかし、史官である彼女の祖父は、彼のいた時代の素晴らしさを称え、今の人類はもう終焉を迎えるのみだと告げ、その寂寞とした心をさらに消沈させます。

ここでマリモ祖父ちゃんが彼に歴史を語ったのは、決して彼を絶望させるためではなかったのでしょうね。
歴史に携わっていた彼は、人類の栄光の時代を肌で感じていたはずです。老人が若い頃を懐かしむとは似て非なる感情とでもいいましょうか。人類はまだ衰退したわけではない。一人でも未知に望む者があれば、それは人類がまだ進化する術を持っている証拠なのだから。

イケダの決意

「行ける所まで行くさ。手をつかねて滅びを待つなんで、僕の性に合わないんだ」

「孤独と暗黒の旅をまた続けようというの!?まだ誰も乗り出したことのない銀河系の外に!?」

「もうそこにしか光明は遺されていないんだよ」

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そしてラグラング星から全住人が撤退するその日、イケダは決意をします。地球に戻らず、このまま銀河の外に同じようにコールドスリープして旅に出ると。
既に燃料も少なく、銀河系の外にはまた数千年レベルの時間が必要になる。あまりに無謀だとマリモは説得するも、イケダの決意は揺るぎません。
そんな時、マリモ祖父ちゃんが、博物館にあるこの星に初めて降り立った宇宙船のタンクにまだ僅かに燃料が残っているのでそれを使えと提案します。
イケダを止めて欲しかったマリモは、祖父ちゃんが応援していると知って自分も本心を打ち明けます。自分もイケダと共に行くと。

ここが短編の惜しい所なんだけど、マリモがイケダに一緒について行くと言う必然性があまりないんですよね。
彼女は別に外宇宙に憧れていたわけでも、イケダに恋をしていたわけでもない。突然、そんな提案をし始めてとんとん拍子に進んで行っちゃうんだよねえ(-"-;)まあ、これが長編だったら、マリモの葛藤も描くのだろうけど、短編では「突然」思い直す、という手法しかなかったんでしょうねえ。ここは非常に惜しい所です。

去る者と往く者を見送るのは老人の役目

「我々がずっと前に失っていたものがここにあった。未知に挑む勇気、明日を信じる若さ。遠い将来、遠い星で新しい人類が再出発するかもしれぬ・・・」

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マリモの旅立ちを了解したお祖父ちゃんは、この惑星に一人残ると宣言。そして、自分にとって青春の場所であり、亡き妻との思い出の場所でもある丘に上り、地球に去ってゆく巨大移民船と、外銀河を目指して飛び立つイケダとマリモの乗った宇宙船を見送るのでした。

お祖父ちゃんはイケダをけし掛けていたようにも見えるけど、実際はどうなんでしょうかね。
恐らく、イケダがすんなり地球に戻る選択をしていれば、お祖父ちゃんはこの惑星に残るなんて決断をせずに、マリモと一緒に地球に戻っていたでしょうね。
史官である彼は、人類の希望が一つも無くなってしまうのは余りにも寂しすぎると思ったのでしょう。そして、今の人類が忘れてしまった未知への挑戦心を宿している彼に、人類の未来を託したようにも見えます。もうちょっとページがあればそこまで見れかもしれませんね。
最後のシーンも、巨大な移民先と小さな宇宙船の対比はその企図する想いとは対照的ですが、ここはもうちょっと演出が欲しかったかな。私なら、イケダの宇宙船にスタビライザーくらいつけて、飛び立つ姿に光の翼を書き加えてますね。イケダたちの宇宙船は未来へ向って羽ばたく象徴、地球に帰還する巨大宇宙船はその翼を失ってしまった者たちとして、より一層の差別化ができたような気がします

無謀とも思える未来へのチャレンジ精神こそ、人類がここまで発展してきた原動力。
それを忘れてしまった者は、もはや老衰を待つだけです。しかし、若き日の志が受け継がれているならば、それはまた新たな種の始まりになるのかもしれません。

藤子不二雄短編集 みどりの守り神

藤子不二雄短編集 みどりの守り神
https://livedoor.blogimg.jp/chihaya1023/imgs/0/2/02f42db9.jpg

毎度お馴染み、藤子F不二雄氏の短編です。
この作品はいわゆる人類滅亡モノで、世紀末あたりにこの手の作品は映画でもマンガでも結構氾濫していたような気がしますが、やはり印象に残っているのは氏のこの作品くらいなものです。
この作品が発表されたのは1976年らしく、ようやく環境問題が表面化してくる頃ですかね。氏の作品は時代に直結しながら、それでいて未来への警鐘を巧みに織り交ぜていますが、この作品はそういう作品の中でも白眉だと思います。

劇中に出てくる登場人物は3人。主人公のミドリはマンガではミドリという名前しか明らかにされておらず、ストーリーに必要のない細かな設定は明確にされていませんでしたが、「藤子・F・不二雄のSF短編シアター」というオリジナルアニメになった際に深見みどりという名前になって、その他細かい設定も追加されているのようです。アニメは未見ですが、20年も前の作品だからもうレンタルもしてないでしょうね。

概要

高校2年生の深見みどりは、両親と東京から沖縄に向う途中、飛行機事故に遭遇。飛行機は航路を大きく外れ、雪深い山奥に落下してしまう。
この事故の生存者はたったふたり。みどりと大学生の坂口五郎。二人は協力して下山を始めるが、往けども往けども日本とは思えないジャングルが続くばかり。そしてついに東京にたどりつくが・・・

生存者は二人

「よほど長い間、意識を失っていたらしいよ、ぼくらは。気が付いたら朝だった。昨日のことだ。機内は見るも無惨な。僕は外へ出た。思わず叫んだ。雪が全面緑色に。よく見るとコケなんだ。聞いたことあるかい?雪の上にコケが生えるなんて。1時間後、君が起き出してきた。とにかく救助を求めようと、二人で山を降りはじめた」

「思い出したわ。あたしが歩けなくなって、ゆうべはここで寝たのね」

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飛行機事故の生存者は二人だけ。しかも、彼ら二人は全くの無傷。彼女たちが無傷なのは一応理由はありますが、それは後々明らかになります。他にも飛行機事故でありながら、救難が誰も来ていないこと、春先に墜落したはずなのに、気温が異常に高いことなども明らかになってきます。
大学生と女子高生なんで、ラノベとかでもありそうな展開ではあるんですが、この坂口くんはお世辞にも見た目格好いいキャラとはいえないところが藤子作品らしい(笑 


苛立つ坂口と従順なみどり

「もっと大きな街へいけば、きっと誰かいるわよ。明日は朝早く出発しましょうよ」

「その足でか!? 偉そうに言うな!僕におぶわれなくちゃ、ロクに歩けもしないくせに!」

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進めど進めど森を抜けられず、坂口は次第に苛立ち、歩みの遅いみどりを罵倒してついには置いて先に歩いて行ってしまいます。しかし、暫くすると戻ってきて、みどりが足の爪がはがれるほどの怪我をしていると知ると、彼女を背負って夜道を下山。そしてついに人家を見つけるも、そこは無人の里でした。

救出も来ない、人家も見えない、水も食料もないって状況だから、早く下山したいって坂口くんの気持ちも分かるけど、こういう時に人間の本質的な部分が現れちゃいますね。
最初は見捨てていくけど、結局、助けに戻ってくるのは、坂口くんは嫌な奴っぽいけど本質的なところでは悪い奴ではないんでしょうね。年下の女の子に嫌味を言いながら下山する様子は見苦しいけど、冷静になればちゃんと正しい判断ができるから、どこにでもいる普通の青年なんでしょうな(^ー^;A

一方のみどりは坂口に罵倒されながらも、悪いのは自分だから彼を恨んではいけないと自分を戒めるあたり、両親の教育の良さと彼女自身の資質の佳さを物語ってますw もう35年も前の作品だから、今の女子高生だとこうはいかないだろうけど(笑

結局、無人のこの里に泊まるわけですが、電気ガス水道こそ通ってないものの、それぞれの家は今すぐにでも住めそうなほど片付けられ、食べ物も豊富にあるのです。二人は墜落現場から食べ物を持ってきてはいないのですが、ここに来る間も、なぜか気付けば目の前に食べられる木の実があったりして食事には一切不自由していません。さらに、この里で1日泊まっただけで、ミドリの足は完癒してしまいますが、この時、二人はこの不自然さには何の疑問も抱いていません。
まあ、精神的にそれどころじゃないんだろうけど。

翌朝、無人の里の傍に比較的大きな川が流れていることに気付いた坂口は、手作りのいかだを作って川を下ろうとします。しかし、暫く進んだところで川の中央に巨大な障害物があってそれに激突して沈没。二人とも実は泳げないため、そのまま川の底に沈んでしまうのですが、目が覚めてみると植物のつるに身体をからめとられて地上にいました。
ここでも二人はこの不思議な現象を気にも留めずに進みますが、歩いているうちにあることに気付きます。

東京へ着いていた

「東京がジャングルになってるんだ!」

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そう、彼ららはとっくに東京についていたんですね。ずっと深い森が続いていたので気付かなかったようですが、川で激突したのは浅瀬に座礁していた船で、既にこの時点で東京湾の河口近くまで下っていたけど、森が深くて気付かなかったんですね。

この作品が書かれた当時はまだ東京には高層ビル群とか少なかったんでしょうね。いまだとスカイツリーやら高層建築物が山ほど建っているので、それらがツルで覆われて緑色をしていたとしても気付きそうなものですが(^ー^;A

人類滅亡の原因

「街にさえ出れば。それだけをたよりに長い旅。その結果がこれだ!天にも地にも、生き残ってるのは二人だけ!」

「きっとまだ誰か残ってるわよ」

「5月4日。最後の新聞の日付だ」

「でも、探せばどこかに・・・」

「無責任な気休めは止めろ!」

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とりあえず東京の大きなホテルで寝泊りすることにした二人。そこで、坂口は自分たちが墜落した翌日の新聞から、細菌兵器が誤って世界中に漏れてしまったという記事を見つけます。
その細菌は爆発的な感染力を持っており、ワクチンは効かず、感染した人間は1週間以内に細胞が全て溶けてしまい、その致死率は100%とのこと。発生から僅かの期間で世界中に広がったようで、新聞も20日後にはもう刷られていないようでした。

この感染力からすると空気感染でしょうね。感染から発症までが僅かで、しかも細胞を全て溶かしてしまうというあり得ないほど強力な細菌のようです。
昆虫などでは死亡すると身体の酵素が働いて細胞を分解するものもいるから、それと同じような原理なんでしょうね。
しかも、この細菌は人間だけでなく、全ての動物に適用されるとのことで、感染力の強さと発症率の高さを鑑みると、ねずみ算的に増えていったのでしょうね。
まだ海外旅行も稀だった35年前にこれだけの感染力をもつということは、現代だと恐らく1週間もせずに世界中に蔓延するでしょうねw

事実を知った坂口は気がふれてしまい、ミドリの静止も聞かずに森の中に入って行方不明になってしまいます。
アニメではやけくそになってミドリを強姦しようとしていたとのことだから、そっちの方がリアルな気がしますけど(^ー^;A

みどりの守り神

「安心して眠りなさい。みどりの守り神がついていてくれるよ。ぐっすりお休み」

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坂口を見失ったミドリは、ある決意をして自宅に戻ります。
都内にあったミドリの自宅は木々に覆われていたものの、内部は旅行に出発した時のまま片付けられていました。
そこで、ミドリは近くの川で水浴びして身体を綺麗にし、お気に入りのドレスを着て自分の部屋で手首を切って自殺を図ります。
しかし、次に目覚めてみると、ミドリはベッドに寝かされ、切った手首は元通り完癒していました。そして見知らぬ中年男がミドリを覗き込みながら言ったのが、みどりの守り神がついてくれるという言葉。

この後、目覚めたミドリはこの男、白河貴志からこの世界の仕組みを聞かされます。
彼の説によれば、爆発的に広がった細菌は長時間の低音には弱いようで、一定の温度を維持できない動物には効力を発揮できないとのこと。つまり、身体が低体温になっている人間には効かなかったということです。
ミドリが墜落した現場は雪深い山の奥。そして白河はテレビのディレクターで、雪山を撮っていた時に雪崩にでくわし、ずっと雪の中に閉じ込められていたとのこと。
彼の説によれば、ミドリも白河もおそらく数百年単位で「冬眠」していたとのこと。普通ならとっくに死んでるところですが、ここで彼が提唱したのが進化論です。
地球上から瞬間的に動物が絶命してしまい、困るのは誰か。それは植物です。二酸化酸素を吸って酸素を出す植物にとって、二酸化酸素の供給源である動物の絶滅は植物も絶滅に迫られるということ。
そこで、植物は僅かに残った動物が生きられるように自らを突然変異で進化させ、より動物に優しい植物への変化を余技なくされたのです。
ダーウィンの唱えた進化論では「自然は跳躍しない」とあって、何世代にも渡って少しづつ進化するといわれてましたが、その後に提唱されたネオダーウィニズムではこれは否定され、跳躍説は新しい種が大きな突然変異の結果として出現するといわれています。

まだ当時は突然変異で進化するという考えよりも、ゆっくり進化するというダーウィンの進化論の方が人口に膾炙されていたはずですが、藤子氏はどこから突然変異説やネオダーウィニズムを知ったのでしょうかね?

ミドリたちが下山する折、空腹になると栄養価の高い見たことのない木の実が目の前に麩ってきたり、ミドリの足の傷や手首を切った傷が一瞬で完癒したり、水で溺れたミドリと坂口をツルを伸ばして掬ったりしたのは、全て植物が動物を生かそうとして進化した結果、そういう性質をもつ植物が生まれたということです。

当時はまだ環境破壊の危険が叫ばれて間もない頃でしたが、藤子氏は既にそれの行き着く先を創造してマンガにしていたと思うと、その想像力と発想力はまさに天才的ですね。

二人で旅立ち

「鳥が!」

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二人はまだ同じように生き延びている人々がいるのではないかと希望を持ち、坂口くんを含めて生き延びた人を探す旅にでます。その直後、空に鳥が群れをなしているのを見て、二人は必ず誰かどこかで生き延びていると確信し、旅に出るのでした。

ミドリを助けてくれたのが、30近いオッサンだってのが藤子作品らしいリアリティですね。今時のラノベや読みきり作品なら、イケメン以外にあり得ませんから(笑

本作品のOVAは既に見ることは適わないと思いますが、藤子不二雄読みきり短編集として中公文庫から文庫本が出ているので興味のある方は読んでみてください。薄い文庫のくせに600円くらいしますけどΣ( ̄□ ̄;)タカッ!

藤子不二雄短編集 どことなくなんとなく

どことなく なんとなく

新年度はアニメも放映してないので、久しぶりにマンガの更新。とはいえ、長編は「妖精事件」を書いて気力が尽きたのでまたも短編でお茶を濁します(笑

短編と言えば藤子・F・不二雄氏の作品しかありません。数、質ともに氏を越える面白い短編を描けるマンガ家はもう現れないような気がしますね。

今回、また藤子・F・不二雄氏の短編全集を買ってしまったので、読んでたら書きたくなりました。同じような短編集何度も買ってるので、恐らくだぶってる作品をいくつも持ってますわ(^ー^;A

この作品も最初に読んだのは学生時代ですね。この作品の主人公と同じような感覚を持っていた、いわゆる廚二病の頃だったかと。ただ、この作品の主人公のように、その感覚が本物だってことはなかったですけどねw

概要

ただのサラリーマン、天地はある日、空が真っ白になる夢を見た。その後、世界は暗闇に包まれ、永劫の時が流れた・・・・と思ったところでいつも目が覚める奇妙な夢。

最初は気にも留めなかった天地だが、その日以来、全ての存在感が稀薄に感じるようになった・・・

この話も短編32ページです。登場するのは主人公の天地(たぶん、あまち、かな?)。関わってくるのは奥さんと子供、そして同僚の4人だけです。

世界設定もキャラ設定もキャラの掘り下げも何もない、ただストーリーを魅せる作品。今はこーゆー作品作る人いないからなあ(^ー^;A

実在感のない世界

「君だ。あの空だ。雲だ。山も林も草原も、何もかも実在感がないんだよ!」

「冗談じゃねえや。俺はちゃんと実在してら」

「そう思ってるだけかもしれない」

「誰が?」

「僕が。・・・子供の頃、似たようなことを考えた。この世に存在するのは僕の意識だけど、まわりをとりまくものが僕の意識の生み出した妄想じゃないかと」

「おまえさんの生まれる何十億年も前から地球は回ってらい」

「それも妄想だとしたら?あしもしない歴史やそれを証明する科学やいっさいがっさいが僕の意識のでっちあげだとしたら?」

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まさに廚二病(笑 思春期は一回はこういうこと考えるよね? ね?(必死w

氏がこれを書いたのは1975年。まだ廚二病なんて言われ方をしてなかったけど、こういう思春期の妄想ってのは昔からあったんでしょうね。やはりこの頃ってのはいろんなことを考えるんだろうねえ。嗜好や環境的なものが強いだろうけど、同じような日常からの逸脱願望ともいうべきものでしょうかね。社会人になると、忙しくて考える暇もないですけどね(笑

この主人公の天地は子供の頃から空想家だったようで、幼い頃から親友だった同僚も彼の妄想癖が復活した程度にしか思ってなかったようです。しかし、この存在感の稀薄さに絶えられなくなった天地が奥さんに泣きながら助けてくれと訴えたことで、奥さんは彼がノイローゼ気味と考えて、昔からの親友に山登りに連れていって気分転換をさせてくれ、と言ったことから、冒頭から最後まで、この二人の山登りの描写に終始します。彼の妄想がどれだけ酷いか、彼がどんなことで悩んでいるかという回想はあるけど、舞台は山の中で二人の会話だけで進むからねえ。このシンプルさが凄いw

実は妄想ではなかった

『これ以上は無理のようだ。試みは失敗に終わった。遙かな昔、ここに地球という星があった。なんでも1発の核ミサイルの誤発射が引き金になって、数十億の住民は何が起きたかを知る間もなく虚空の塵となった。我らが記録の底に埋もれた伝説を掘り起こし、地球遺跡の調査に向かったとき、かつての軌道付近でたった1個の細胞を採取したのだ。クローン培養によって元の生命体に復元させた。記憶の底に、彼等の過ごした生活の記録があった。それを投影して生活圏を再現したのは思いやりだったのだ。地球人はあまりに疑い深く、気弱だった。では、そろそろ帰るとしよう』

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私が思春期に感じた全てが自分の意識の作り出した妄想ではないか? というのはそれ自体がたんなる妄想だったわけですが、この主人公が感じた違和感は、実は本物だったのです。この時、既に地球が核戦争で粉々になって数千数万の年月が経っており、地球の存在は他の星の生命体にとって伝説となっているレベルの存在でした。そこに調査隊が来て見つけたのが、天地のたった1つの細胞。その細胞が何で数千数万の間存在しえていたか不明ですが、まあそこはSFの世界だからということでしょうかw

そして、この調査に来た宇宙人は、その細胞からクローン技術で天地の死んだ時の年齢まで成長させたクローンを作り出し、彼の意識を操作してその死ぬ数ヶ月前までの生活をリプレイさせていたわけです。彼が現実と思っていたのは、この宇宙人がリプレイさせていた夢だったわけで、たった1つの細胞の記憶を掘り起こしただけだから、単調で起伏がない生活しか再現できなかったようです。

この宇宙人たちが何でこんなことをしたのか。それは価値観が違うから分からないけど、もし地球人だったら、こんな状況でこの細胞を復活させるかねえ。それが知的生命体と分かっているんだから、その1つの細胞から個体を復活させて再び地球人を増殖させるのは不可能だと思いそうだけどねえ。まあ、この宇宙人が交配によって増える宇宙人ではなかったら、単体でも何とか増殖できると思うかもしれませんけど。

そして、天地はその夢の中で、疑心暗鬼になってついにその友人を殺してしまいます。その結果から、宇宙人たちは地球人は疑い深くて精神が弱いと断じて、この復活させた天地の個体を宇宙に放り出して去ってしまうんですよ。

勝手に復活させておいて、こいつら疑う深いから棄てようぜって、まるで採ってきた虫を棄てるような感じで宇宙に放り出して去ってゆく宇宙人は、何とも傲慢に思えましたが、今読んでもやっぱ傲慢だよな。勝手に生き返らせて、要らないとそのまま宇宙空間に放置ってw 

天地の細胞1個から復元したから、記憶が曖昧で単調な生活しかなく、全ての存在感が稀薄になるのはしょうがなく、それを技術力でカバーできなかった宇宙人たちの方が悪質に思えるんだけどねえw

まあ、この作品の骨子は疑心暗鬼のまま成立している仮初めの平和と、今のまま変化をしないといつか人類は滅ぶという警鐘であって、宇宙人の方策を責めるのはお門違いだろうけどね(^ー^;A

妖精事件(後編)

妖精事件(後編)

じゅりあの決意

「ちょっと待ってよ!あんまりに酷いんじゃない?じゅりあにこれから一生一人でいろと言うわけ?無責任すぎる!」

「じゅりあ、おまえには判るはずだ」

「・・・・判った。王子は最初から、みんなの王子だったんだね。あたしだけのものにはならない」

「だめよ!じゅりあ!私は絶対に認めない!」

「じゅりあ、おまえは頭のいい女だ。本当に男を捕らえて放さない方法を知っている」

「いまここで泣くこともできる。嫌だっていうことも。だけど、黙って行かせることもできる。そうしたら、王子は一生私を愛するでしょう」

「相手の思い通りになることで愛されようとするのは弱さだよ!」

「好きだよ、王子。これからも永遠に。どこへでも行っていいよ。あたしは、ここに居る。その代わり、あたしを好きになって。強く、強く。この世の誰もしらないくらい強く・・・」

「じゅりあ、本当にいいの?」

「愛は滅私奉公だよ。それが、王子が私を選んだ理由なの。いっしょに生きるってことは、いっしょに居ることじゃない」


こうして、妖精王となった王子は全ての妖精を引き連れて妖精界に戻ってしまうわけですが、たったひとり、彼にも服従できない妖精がいます。それがクーフーリン。

王子がクーフーリンに身の処し方を訪ねると、クーフーリンは一人こちらに残ると言います。じゅりあがクーフーリンになびくことはないぞ?と王子は助言しますが、クーフーリンは愛なぞいらない。愛するだけだ。彼女の時間だけをもらうだけだと王子たちを見送るのです。

自分の中にある愛という感情を理解したクーフーリンは、自分の愛がじゅりあには届かないことも気づきます。そして、じゅりあが王子の愛に対して滅私奉公すると言ったように、王子の言い分を全て認めて一人で生きていく決心をしたように、クーフーリンも、じゅりあに対して実らぬ愛を向けて滅私奉公するんですね。

愛というのは滅私奉公、とまで言い切れるものではないでしょうけど、この言葉が心に染みるほどに自分の愛がこれに近い人はいるんでしょうね。少なくとも、私はここまでの経験はない(^ー^;A

エピローグ

「うちの母はじゅりあといいます、私とクーと3人暮らしですが、クーはお父さんではありません。母に言わせると、クーは他人とのことです。母はクーに対しては女王の様です。クーは何も言わないけど、母のことをお姫様みたいに大切にしています。私は、クーと母みたいな恋愛もいいなって思います」

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「おはようございます」

「ああ。コーヒー飲むか?」

「いただきます。じゅりあは?」

「寝てる」

「・・・相変わらず、あなたが家事をやってるんですか」

「べつに。ヒマだから」

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じゅりあと王子の子供は10歳になった所からエピローグはスタート。クーフーリンとじゅりあと子供・メシアの3人で、アイルランドで自給自足の生活をしているってのにはびっくりですw
しかも、クーフーリンがお茶を淹れたり家事全般をしてるんですよ(笑 時々、訪ねてくるマリオンとも親しくなってるし、凄い人間味に溢れちゃってw

クーフーリンが献身的にじゅりあに仕えるように働いている様は、確かに父親には見えないけど、でもこの3人が一緒に暮らしていたらもう家族じゃんw 
メシアはクーフーリンのことをお気に入りのようで、父親のように慕い、恋人のように愛しているようです。 まあ、正直この状況なら、子供がクーフーリンに惚れるのも判る気がするw 人間界の生活にすっかり馴染んだクーフーリンが格好いいんだよねえw
でもメシアは妖精の血が混じっているのか、10歳には見えず、14歳の頃のじゅりあにそっくりなんですけどねw

メシアの旅行

「妖精の魔法で幸せになった人の末路って興味があったんだけど・・・」


3人の生活を描いた後、メシアはふらりと旅行に出ます。それは、母親が父と出会ってから、助けた人たちの末路を確認する旅。
最初の目的地は日本。王子と結ばれた直後に王子を攫われ、彼を探しながら東京をうろつきながら妖精事件を解決していた頃に出会った人たちを片端から視てゆきます。

これが面白いんだよねえ。前半で結構活躍した人とかが、10年後にどうなっているかちゃんと描かれてますからね。そして全ての人がメシアを見てじゅりあと間違え、じゅりあに話しかるように今の幸せな生活を語り出すのです。
じゅりあが日本で一生懸命助けた人たちは、事故で亡くなった人を除いてみんな幸せになっていました。メシアはこれによって、母親がしたことが実を結んでいたことを知るのですが、次に、父親である妖精王と契約を結んだ人たちの元にゆくと、それが一変します・

「何も願わなければよかった」

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戦闘妖精として王子と契約した4人は、全員が王子との契約を後悔し、願いをしなければよかったと吐露します。

「成功」を望んだロック歌手のアルバートは、自分が作った歌が大ヒットしますが、自分でもその歌が大したことないのに大ヒットしていると気付いてしまいます。スタッフやファンに聴いても、どこも良い所はないけど、ついCDを買ってしまうという答えしか返ってこず、自分には才能がなく、成功だけがただ与えられているという状況に苦悩し、結局、歌手を止めて10年後には農夫として暮らしていました。
既に結婚して子供もでき、今の生活には満足しているようですが、かつて王子に頼んだ願いは自分の中で汚点になっているようで、歌手だった頃の自分は思い出したくもないようです。歌を歌い続けるという王子との契約はとうの昔に反古にしており、今までの「成功」が全て奪われてしまっていましたが、それが彼にとっては救いになっているようです。

「明晰な頭脳」をもらったローカンとミースは会社を設立して巨大企業の社長に。しかし、他人から与えられた頭脳でチャンスとお金を手に入れることの虚しさに気付いたようで、社長業はほとんど何もせずに酒浸りの生活に。
メシアが訪ねてきたことで、ようやく決心がついたようで、10年間築き上げてきた地位と名声と金を全て放棄。何もかも失って、二人だけで自由な生活をするためにどこへともなく去っていきました。

「死んだ両親の復活」を願った田中由恵は、その後、好きな人が出来てしまい、メシアが訪問する直前、その好きな人のプロポーズを受けていました。その直後、目の前にいた両親は消え、最初から両親は死んでいたこと、になっていたようで、由恵が打ちひしがれている所にメシアが丁度現れます。
彼女だけはメシアがじゅりあの子供だと気付きますが、父母を5分前に失ったショックから、終始怒り気味でメシアに接するだけでした。

母親が助けた人々がみんな幸せになっているので、王子が願いを叶えた4人も幸せになっていると思っていたメシアは、4人がそろって後悔し、願いなんてしなければよかったと言ってることに驚きます。

何の苦労もなく手に入れた願いと、じゅりあの助けによって苦労しながら手に入れたものというのは、その当時は価値に天地の差があったんでしょうけど、歳を経るに従って、簡単に手に入れられたものは重荷になってくるってことでしょうかね?
後悔している4人は、願いそのものを間違えたと言いつつも、恐らくもう一度願いを叶えようと王子が来ても、願いを言わないでしょうね。ずっと同じ願いを続けるというのは呪いのようなもので、変化のない生活になってしまったんでしょうかね。じゅりあが助けた人々は、決して順風満帆の10年ではなかったけど、今は幸せでした。王子が願いを叶えた人々は、順風満帆の10年だったけど、今は後悔している。この差というのはどこから来るのでしょうかね? 理想というのは決して具現化することはなく、理想に向かって努力を積み重ねていくことが尊いという戒めでしょうかね?

王子との再開とクーフーリンとの別れ

「王子がむかえに来たの」

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「おまえはどうする?」

「行かない。これは最後の意地かもしれん。俺はじゅりあを共有しない。決して」

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メシアが旅行から帰ってきた数日後、突如として妖精界とをつなぐ門が開きます。王子が、妖精界でも人間が生きられる方法を見つけたのか、それともじゅりあが妖精に近づいたのか判りませんが、王子がじゅりあを迎えに来たのです。

メシアは今まで一度も出会ったこともない王子よりクーフーリンに懐いており、王子の元に行くという母親を理解できず、この地に留まると言います。
そしてクーフーリンも、王子から一緒に来ないかと誘われますが、じゅりあとの想い出のあるこの地で生きていくことを望み、そしてメシアとクーフーリンを遺して、再び妖精の門は閉じられるのでした。

じゅりあが最後のお別れの時、クーフーリンのことを世界で二番目に好きだという場面にはちょっと感動。それに対し、クーフーリンは、「おまえに好かれようと思ったことはない。俺が好きなだけだ」と嘯くのですが、これも彼の意地でしょうねw

その後、遺されたクーフーリンとメシアがどうなったかは描かれませんが、この二人で世界中を旅しているような気がしますね。クーフーリンはじゅりあに代わってメシアの世話を健気にしていそうだけど、彼の本質が「妖精の騎士」であることを考えれば、妖精の姫と王女に仕えるという形は、彼には最も心地よかったのかもしれませんw

妖精事件(中編)

妖精事件(中編)

妖精王の遣わせた戦闘妖精

「妖精王と契約を結んだ戦闘妖精たちよ。このアイルランドの地でじゅりあを捜せ」

https://livedoor.blogimg.jp/chihaya1023/imgs/4/4/4426d366.jpg

東京で王子の手掛かりを捜しつつ、人助けで妖精がらみの事件を解決していたじゅりあですが、妖精に連れ去られた女の子を探す、という事件の解決には失敗して落ち込みます。そんな時、クーフーリンから王子の故郷であり、王子が軟禁されている妖精界への出入り口があるアイルランドに行かないかと誘われます。
落ち込むジュリアを励まし、悦ばすためにクーフーリンは、味方の猛反対を無視してじゅりあを妖精界の本国とも言うべきアイルランドに連れてきてしまうわけですが、これにより、クーフーリンは味方のボスからも仲間からも煙たがられるようになります。雑魚だったら瞬殺されているんですが、クーフーリンは妖精界最強のため、王子と敵対するボスでさえ簡単に殺すことができないんで、実際は半放置状態になるんですけどね。

一方の王子は妖精界に軟禁されているのですが、分身のようなものを作り出すことに成功し、じゅりあがアイルランドに来ていることを知るや、かつて自分が助けた人間に特殊能力を与えてじゅりあを助けるように命令します。それが戦闘妖精。つまり、妖精と名が付いているけど、みんな人間です。

彼等は一人を除いて、王子から願いを一つ叶えてもらっており、その対価としてじゅりあ救出を命じられているので、それを断ると願いが取り消されてしまいます。だから、遠くはアメリカからわざわざじゅりあを助けるためだけに、アイルランドに集結するわけですが、みんな個性的なんで全然連携が獲れないんですよね。
この5人のキャラは後半にしか出てこないけど、結果的に物語りの終盤までこの作品のテーマ性を背負って存在する人間の代表みたいになっていて、中盤や前半に活躍したキャラを食ってしまうほどに存在感が強くなるんですよね。本当は前半に登場したキャラとかでいいキャラもいたんだけどw 高河ゆんさんの作品は、途中で登場したキャラでも愛着が出ると存在感を増してくるのがよく分かります(笑 
ではその5人を紹介

田中由恵
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19歳。日本人。元々、霊感のようなものが強く、妖精と交信のようなものができた。15歳の時、「事故で死んだ両親を生き返らせる」ために王子と契約した。
王子と交わした契約は「生涯、両親以外の人を愛さない」。戦闘タイプは攻撃。

ローカン・ワイルド&ミース・ワイルド
https://livedoor.blogimg.jp/chihaya1023/imgs/6/7/670bebb5.jpg

年齢不詳のアメリカ系アイルランド人の子供。孤児院育ちで常に行動を共にしている。姓が一緒なのは後から自分たちで勝手につけただけで、実際は兄弟ではない。二人とも「明晰な頭脳」をもらって王子と契約した。
王子と交わした制約は不明だが、「チャンスと金を手放さない」と推定。戦闘タイプは二人一組で攻撃。二人とも子供だがアル中。

アルバート・オブライエン
https://livedoor.blogimg.jp/chihaya1023/imgs/f/e/fe9e73be.jpg

20代のイギリス人。有名なロック歌手。「歌手として成功する」ため王子と契約した。
王子と交わした制約は不明だが、「歌を詠い続けること」と推定。戦闘タイプは防御オンリー。

マリオン・オサリバン
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20代前半のアイルランド人。妖精が見えて交信・会話ができるフェアリー・ドクター。王子と契約は交わしていないが、フェアリードクターとして王子の願いを叶えるために協力する。
攻撃的性格の4人とは逆で、パーティー内で唯一温厚な性格でパーティーのまとめ役。唯一、物語の最後まで、じゅりあと行動を共にする。


彼等はそれぞれ自分が王子から与えられたものを失わないためにじゅりあに協力することになりますが、5人集まったところを王子と敵対する妖精集団のボス、クイーン・メイヴに知られてクーフーリンと対決させられます。

クーフーリンひとりvs戦闘妖精の対決は、クーフーリンの圧勝。由恵とローカン&ミースの同時攻撃でも傷一つ着けられず、アルバートの防御はクーフーリンの一撃で破れた上に5人全員を瞬時に気絶させてしまいました。

クイーン・メイヴの命令でジュリアとその協力者を抹殺するよう命じられていたクーフーリンは、本来ならここでじゅりあを含めた6人を抹殺しなければならないのですが、彼はじゅりあを生かしたまま王子の元に連れて行き、じゅりあ以外の5人も気絶させただけで済ませてしまいます。

この物語はじゅりあと王子の愛の物語なんですが、クーフーリンの存在が大きすぎて、途中からクーフーリンの叶わぬ愛の行方が気になってくるんですよねえ。彼は最終的にはメイヴから抹殺命令が下され、仲間たちから襲撃され、さらにじゅりあたちからも狙われるのですが、それらを全てはね除けて、孤高の存在としてひたすらじゅりあだけを見続けます。じゅりあからは憎悪と嫌悪の言葉しか吐かれないにもかかわらず、自分でも理解できない感情でひたすら彼女のことだけを考えているクーフーリンは、何とも健気で可愛く見えてくるんですよw

最後の戦い

「いま、はっきり判った。その女が欲しい。欲しい。どうしても欲しい」

「・・・は? 女ってわたし!?」

「俺達はもちろん、メイヴたちも敵にまわるぞ!」

「かまわん。他には何も考えられない」

「あたしは嫌だ!あたしは王子の奥さんなんだから!」

「おまえが欲しい。殺してでも言うことをきかせたい」

「クーフーリン、それは愛じゃない」

「かまわん。他には何も考えられないんだ」

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クーフーリンはメイヴの命令を無視してじゅりあを拉致しようとしますが、王子の分身に邪魔されて不覚にも眠りこけてしまいます。助けられたじゅりあは、そのまま王子の軟禁されている塔まで自力で向かいます。そして、軟禁されている王子を助けて結界の外に出ることに成功。王子は妖精王としての力を取り戻すも、そこに再びクーフーリンが現れます。
王子と幸せそうに抱き合うじゅりあを視て、ようやくクーフーリンは自分の気持ちを翻然と悟ります。

もう好きな子のこと以外は何も考えられない!って思春期の学生みたいな気持ちを隠すことなく吐露するクーフーリンは、ホント可愛らしいですわ(笑 実際、当時原作を読んでいても、王子よりもクーフーリンの方が格好よく見えたからねえ。王子を追い掛けるじゅりあと、じゅりあを追い掛けるクーフーリンという構図がずっと続いていたんですが、クーフーリン自身がようやくその気持ちに気付いたは最終巻ですからねえ。読者もヤキモキしましたわw

で、王子とクーフーリンの、女をかけたタイマン勝負が始まるんですが、ガチンコ殴り合いでほとんど学生が女の子を取り合ってるみたいで、そのアンバランスさが何とも甘酸っぱいw
まあ、結果はやはりクーフーリンの圧勝なんですけどね(^ー^;A クーフーリンは最強という立ち位置を最後までぶらさなかったですからね。彼は自分の意志を常に貫き、いかなる敵も排除した。ただひとつ、じゅりあの心だけが手に入らなかったんですが、それでも彼の献身的な愛は男性から視ても憧れますw

妖精王の決意

「クイーン・メイヴよ、従え。妖精の王に従うんだ」

「否!僕は自分の好きなようにする!消えない!僕は消えない!」

「消えるんだ。妖精王が決めた。全ての妖精は消えるんだ」

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「聴け、じゅりあ。人間はバカだ。傲慢に世界を変えてゆく。それでも、この星は人間のものだってわかった。かつて、人間たちは何度も危機にあった。病。戦争。外敵。他の命を滅ぼして、世界を破壊して。それでも、人間は美しい」

「・・・・」

「戦おうと思った。赦せないことも。人間なんかと共存できない。もう一緒には生きられない。人間はあまりに毒々しい。・・・だけど、壊すこともできないほど、人間は美しい」

「王子・・・」

「妖精がこの世の始まりから、なぜおまえたちと生きてきたか判るか? 今にも俺達を裏切り、引き裂くかもしれない、牙を持たない猛獣に魅せられているからだ。じゅりあ、おまえたちはこの星に愛されているとしか思えない」

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クーフーリンとガチ殴り合いでも敗北した王子ですが、じゅりあはクーフーリンを拒絶。王子と結ばれないなら、王子と共にここで死ぬから、死体なら持っていけと言い放たれます。その言葉に、クーフーリンは一歩も動くことができず、自分の敗北を知ります。
そしてその直後、クーフーリンがこっそり生かしておいたじゅりあと王子の赤ん坊を連れてメイヴが登場。この赤子こそ、世界を滅ぼそうとしているメイヴたちの天敵となる救世主になることに気付いたメイヴは、王子達の目の前で赤ん坊を殺そうとします。妖精王としての力を王子が取り戻しても、クーフーリンなら王子を倒せるとメイヴは踏んで、王子と子供を殺せば完璧だと考えたのですが、クーフーリンは王子にもメイヴにも着かないと中立を明言。さらに、こっそり合流していた戦闘妖精たちに赤子を奪われ、メイヴは完全に王子の支配下に組み込まれてしまいます。

メイヴたちはこの世界を人間の思うがままにさせておいたら、いつか星ごと壊してしまう。ならば、妖精だけがこの星で生きていればいいと、人類抹殺計画を立てていたのですが、王子はこの星は人間たちのもので、地球も人間たちを愛している。だから、居なくなるべきは自分たちだと思い至り、全ての妖精を引き連れて妖精界に帰ってしまおうとしていた、というのが二人の計画だったようです。

地球が人間たちを愛している、ってのは「アーシアン」と同じ理由で、そのセリフもほとんど同じだったので、読んでる時にあれ?って思ったんですが、たぶん高河ゆんさん自身もこのセリフが好きなんじゃないでしょうかね? 私もこのセリフは好きですw どれだけ破壊されても、どれだけ汚されても、地球は人間を愛し続ける。それが本当の「愛」だから。

しかし、妖精界に人間はいけないので、王子はじゅりあとはここでお別れだと言い出しますが、その言葉に猛烈に反駁したのはじゅりあではなく、彼女を助けてきた戦闘妖精たち。

(後編に続く)
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